マーマレード日和 |
悪夢にうなされると思い切り脳が疲れたまま起きる。せっかくの睡眠がこれでは台無しだ。 そんな朝は特効薬のシナモントーストに限る。 普通ならたっぷりグラニュー糖をかけて、シナモンをドッサリと行きたい所だけれど、我慢、我慢。 振りかける面積はトーストの三分の一・・・・未満。 まずゴツゴツとしたグラニュー糖の歯ざわりとその後から来るニッケの香りを堪能し、雨上がりの秋の高原のようにしっとりと艶やかなマーガリン地帯に舌の至福を感じ、おもむろにマーマレードの入った瓶を冷蔵庫から取り出す。 大瓶で買ったそれを一回りずつ小さい瓶に移し、今朝はフィナーレの儀式へといざなうトーストの食祭。 その達成感ときたら・・・・・ しばらくは、マーガリンとピーナッツバターのクランチタイプと言う2種類の選択にシナモンが加わり、この濃厚なハーモニーが脳細胞に活気を与え、創作意欲を掻きたててくれるように・・・ 春・3月マーマレードの誘惑にいそいそと身を焦がすその日まで。 分厚く切ったトーストの面積がシナモン色に変わったと思えば、その上にキラキラとグラニュー糖が霜のように降り注いでいく。 初めは見ているこっちの口の中が甘く溶けてしまいそうで、思わずコーヒーを2杯も飲んでしまったのだけれど、1週間も見続けているとそれが当たり前になるから恐ろしい。 でも、見ているうちに気が付いたことがある。 湧泉音が唇を茶色に染めながらシナモントーストを頬張る朝は、決まって夢見が悪かった時だ。 二段ベッドの下で寝ているとそれが手に取る様にわかる。 まあ、深くは聞かないけれどね。 |
今日も・・・絶望的暑さ |
熱い・・・・・・息苦しい・・・・ これは・・・・夢?・・・火だ・・・燃えてる・・・ ・・・あれは・・・誰だ?・・・助けなきゃ・・・・ 「ゆね??」 再び、シッカの声で目が覚める。 「大丈夫?うなされてたよ?熱いって」 「・・・・・・うん・・・今日も・・・絶望的に・・・暑い」 「絶望的って、何オーバーなこと言ってるのよ。」 「・・・・ごめん・・・」 「夏は暑くて当たり前。しかも、ここは九州!ってゆね?どこ行くの?」 「・・・・風呂・・・」 それって、フォーンリック家のDNAなのかしら? ちょっと気難しいけれど、日本人より温泉大好きな湧泉音のパパを思い出してしまう。 弟家族である私達がママの故郷である九州の別府に帰ることになった、あの時の湧泉音のパパの喜びようときたら。 |
君の名は? |
「まるで三つ子だね!!」 連絡を受けたパパは、驚いたそうだ。 丁度、雪が降っていたから私の名前は天花(粉雪) ニックネームはシッカ。これ、結構気に入ってるの。 何故?シッカなのかはまた今度。 パパが驚いていた頃、雪が舞う空は不思議な琥珀色をたたえ光り輝いていた。 だから、従兄弟の名前は琥珀。 そして、もう一人の従兄弟、湧泉音(ゆいね)・・・・・は? 「・・・・・こんこんと・・・泉のように・・・音が・・・湧き出る・・・」 さすが芸術家のパパ!なんて素敵なの。 「・・・・それは・・・・表向き・・・温泉好きの父親が・・・かけ流しの湯に・・・・」 「かけ流しの?お湯に・・・?」 「・・・・感動・・・・した・・・」 挙句?で?湧泉音??ってほんとにい~???? 「・・・・・ゆいねなんて・・・長い・・・・・めんどくさい」 まあね、私達もつい言っちゃうよね湧音(ゆね)って・・・・・ 「ゆね!ゆねったら」 シッカの半場呆れた声で目が覚める。 「そろそろ起きなさいよ」 ・・・・・・そうだ。ここは自分の部屋じゃない。 寝ているのは二段ベッドの上。目の前に天井がある見慣れない光景が拡がる朝。 はあ・・・涌泉音は深い溜息と共に横を向く。 朝風呂・・・・・行こ・・・・ ・・・飯・・・後で・・・・・・ しかし、天井に向き直った湧泉音は、再びまどろみの中に入っていく。 |