無題ドキュメント 66
月の女神
それにしても、毎日必ず一度は鍵を探す。
いつものことだけどポケットの中、鞄の中、とありとあらゆる所を探して時間が空しく過ぎていく。
「ま~た、始まった!シッカの鍵探し」
「ウルサイ!黙ってて。ああもうどこやっちゃったんだろ」
「・・・・ないの・・・?」
「事務所に置いてきたんじゃねえのか?」
「ウルサイ!ウルサイ!」
大切なキーホルダーがついたヴェスパの鍵が無い。
階段を駆け下りるときに落としたんだろうか?それとも琥珀の言う様に事務所だろうか?
「ひょっとして、お前さっき手を洗った時にさ・・・」
「ああ!そうかも。ハンカチをポケットから出して・・・」
「・・・・あったよ・・・・」
                           
手水舎の方からふいに湧泉音の姿が現れた。琥珀と言い争っている間に探してくれていたのだ。
「ゆね!!どこにあったの?」
「・・・・手・・・・洗う・・・・・」
        
「ああやっぱり、ありがとう?ゆね?」
湧泉音はじっと私のキーホルダーを見ている。
「・・・・ヘカテ・・・・月の・・・女神・・・」
「ヘカテは冥府の番人だってシッカが言ったろ?月の女神つったら梟を従えたアルテミス。俺だって知ってるぜ?」
「・・・・セレナもいる・・・・同じ神・・・・」
「なんだよ同じって、ヘカテ、アルテミス、セレ・・・ナ?不敵に微笑む月の女神が3人もいるのかよ?じゃあ梟も3匹か?」
琥珀が笑いかけた時、ホウホウと杜の中で梟が鳴いた。
「な、何だ!今の不気味な鳴き声は!!」
「・・・フクロウ?・・・・」
「梟だって?」
「何ビビッてんの?杜の賢者が挨拶してくれたんじゃない」
                         
「い、いや、でも梟って・・・今、梟の話したばかりじゃないか。聞いてたのかよ、おれたちの話」
「こんな田舎だけど珍しいよ梟の鳴き声なんて。私だって滅多に聞かないのに、わざわざ会いに来てくれたのかもね?」
「・・・・知恵の・・・・神・・・・」
「幸福の使いとも言われてるし、ラッキーじゃない?」
「いや、ラッキーとか以前にシンクロ・・・・・」
      
「シンクロ??」
                    
「いや、何でもない。神様っている・・・よな」
どの神様かは知らないけどな。
琥珀は湧泉音の持っている私のキーホルダーを手に取って独り言のように呟く。
顔を横に向けたヘカテのキーホルダー。
昔、家族兼用のクローゼットを整理していて、偶然見つけたものだった。直しこんでいる位ならお守りに持っておきたくて、どうしてもとママにせがんでやっと許してもらったのだ。
火事で亡くなった幼馴染の遺品なのだと、随分あとから教えられたのだけれど・・・・・・