月の女神 |
それにしても、毎日必ず一度は鍵を探す。 いつものことだけどポケットの中、鞄の中、とありとあらゆる所を探して時間が空しく過ぎていく。 「ま~た、始まった!シッカの鍵探し」 「ウルサイ!黙ってて。ああもうどこやっちゃったんだろ」 「・・・・ないの・・・?」 「事務所に置いてきたんじゃねえのか?」 「ウルサイ!ウルサイ!」 大切なキーホルダーがついたヴェスパの鍵が無い。 階段を駆け下りるときに落としたんだろうか?それとも琥珀の言う様に事務所だろうか? 「ひょっとして、お前さっき手を洗った時にさ・・・」 「ああ!そうかも。ハンカチをポケットから出して・・・」 「・・・・あったよ・・・・」 手水舎の方からふいに湧泉音の姿が現れた。琥珀と言い争っている間に探してくれていたのだ。 「ゆね!!どこにあったの?」 「・・・・手・・・・洗う・・・・・」 「ああやっぱり、ありがとう?ゆね?」 湧泉音はじっと私のキーホルダーを見ている。 「・・・・ヘカテ・・・・月の・・・女神・・・」 「ヘカテは冥府の番人だってシッカが言ったろ?月の女神つったら梟を従えたアルテミス。俺だって知ってるぜ?」 「・・・・セレナもいる・・・・同じ神・・・・」 「なんだよ同じって、ヘカテ、アルテミス、セレ・・・ナ?不敵に微笑む月の女神が3人もいるのかよ?じゃあ梟も3匹か?」 琥珀が笑いかけた時、ホウホウと杜の中で梟が鳴いた。 「な、何だ!今の不気味な鳴き声は!!」 「・・・フクロウ?・・・・」 「梟だって?」 「何ビビッてんの?杜の賢者が挨拶してくれたんじゃない」 「い、いや、でも梟って・・・今、梟の話したばかりじゃないか。聞いてたのかよ、おれたちの話」 「こんな田舎だけど珍しいよ梟の鳴き声なんて。私だって滅多に聞かないのに、わざわざ会いに来てくれたのかもね?」 「・・・・知恵の・・・・神・・・・」 「幸福の使いとも言われてるし、ラッキーじゃない?」 「いや、ラッキーとか以前にシンクロ・・・・・」 「シンクロ??」 「いや、何でもない。神様っている・・・よな」 どの神様かは知らないけどな。 琥珀は湧泉音の持っている私のキーホルダーを手に取って独り言のように呟く。 顔を横に向けたヘカテのキーホルダー。 昔、家族兼用のクローゼットを整理していて、偶然見つけたものだった。直しこんでいる位ならお守りに持っておきたくて、どうしてもとママにせがんでやっと許してもらったのだ。 火事で亡くなった幼馴染の遺品なのだと、随分あとから教えられたのだけれど・・・・・・ |