空の影 |
「だから言ってやったのよ。昔書き始めた時にずっと見てたじゃない?って。その続きなんだから当たり前でしょ?って」 「・・・いや・・・多分・・・そうじゃなくて・・・」 「ゆねはどう思うの?」 「・・・魂の・・・翼?・・・人は自由じゃない・・・だから自由になりたいって・・・翼を・・・・・って・・・そうも取れる・・・かな?」 「そうだね。生きるって色んな柵の中でもがいてるようなもんだからね。でも、自由って不自由だと思わない?」 「・・・琥珀も・・・言うよ・・・それ」 「だって学校を卒業したら、誰からも何も言われなくなるじゃない?パパとママは別よ。親だからね。でもあとはもう自分の好きにしていいわけじゃない?するとそれに対する責任も自分で取らなきゃいけないわけでしょ?そう考えたら、子供の頃,大人達が作ったルールの範囲で遊んでた方がよっぽど楽しかったなって 」 「・・・・琥珀は・・・自分の足で・・・立てって・・・」 「うん。誰も代わりに自分の人生を生きちゃくれないぜって」 「・・・言うよね・・・」 見る者、聴く者に委ねる点ではシッカの絵も琥珀の歌も似ていると思った。 ただ純粋に俺の歌を聴いてくれればいい。 何て感じるかはその人の自由だし、少なくともその時だけは心を自由にして翼が生えてどこにでも飛んで行けるように。 誰も束縛は出来ないけれど、責任も負えない。羽ばたく翼を持ったとしても強くなければ飛べないし、目的が無ければ迷うだけ。 「・・・いつまでも・・・仲良しこよしじゃ・・・いられない」 「えっ?何ていったの?」 聞き返すシッカの問いには答えずに湧泉音はその場を離れた。 俺達3人はいつまでも仲良しこよしじゃいられないさ。でもな心は魂はいつも一緒だよ。当然、別々の人生を生きてるし、代わりに生きて行くことは出来ない、でも手助けは出来る。だからちゃんと自分の足で立ってくれないと一緒に溺れるわけにはいかないだろ? そうだ。琥珀はそう言ったんだ。 何故?今まで忘れていたんだろう。 いつも3人で離れたことがないまま高校まで一緒だった。 やがて、シッカが九州に帰り、卒業すると琥珀とも中々時間が取れず、1人家のアトリエに籠ることが多くなった。 いつしか口癖のように仲良しこよしじゃいられないと呟きだしたのは、自戒を込めてのことだったのだ。 外に出た瞬間、不意に夏の陽射しが湧泉音を捉えた。上空を影がよぎり、バサリと羽音が聞こえたような気がした。 「すげえ!デカイな!ん?ユネどうした?幽霊でも見たような顔してるぞ」 「・・・・鳥?・・・」 「ああ、鳶か鷹か何かは知らねえけどデカイ翼だった」 「・・・ヘカテ・・・翼・・・」 「えっ?ああシッカの絵か。何かさあ、あの絵の中に人は描かれてないのに自分がいるような感じがするんだよな」 「・・・琥珀も・・・思うんだ・・・」 「ってことはユネ?お前もそう感じるわけ?」 「・・・自分であって・・・ない・・・あの嫌な・・・夢の続き・・・みたいな・・・でも・・・」 でも?」 「・・・凄く・・・安らかな・・・」 |