無題ドキュメント 57
星を掴む手
琥珀は、ううん多分、湧泉音も、自分の立ち位置が解らなくなってるんだろうな。学校と言う1つのコミューンに居る時代は、守られてたわけだから。
  
シッカは無邪気にじゃれあう2人を見ながら考えあぐねていた。
勉強やテストは嫌いだったけれど、あの頃は与えられたことをやっていれば取りあえず前に進めたから。
人生を深く考えるってことがどんなことなのかも知らなかった。
けれど自分って何なんだろう?とか何の為に生まれてきたんだろう?みたいな、自分探しは恐らく女の子の得意分野だろう。
将来の夢は?みたいなことを寄ると触ると言い合っていた放課後の教室。もっともそれはシッカ達のグループの話で、他のグループの子達は夕べ見たテレビのアイドルだとか、今度出たアイプチは凄いだとか、隣のクラスの何々君から告白されただとか。
あるいは、あの大学は偏差値が高いだとか、今の水準では無理だとか、そう言ったシビアな話だった。
高校を卒業して進学するか、就職するか。自分の人生をたかだか16~7でどうして決めることが出来るんだろう?
何故?誰も何も疑問に思わずいられるんだろう?
誰かに聞きたくても聞けないまま、彷徨っている時期がシッカにもあった。
                            
ハーフと言うだけで、苛められたり偏見に晒されたりしたことが余計彼女を臆病にさせたのだ。
             
いつも守ってくれていた、2人とは遠く離れてしまっている。
                            
パパとママに着いて行くか。残るか。決めたのは自分だった。
湧泉音や琥珀とずっと一緒に居たい。でもその思いが大人に近づくにつれどんどん苦しくなっていったのだ。
私には何も無い。あの2人のような才能も強さも無い。
それがとても惨めで悲しく、側に居る資格なんかないのだと思い詰めてしまっていた。
家業の手伝いもただ何となく、アルバイト感覚でしていただけだ。幸い絵を描くことは好きなので、舞台美術の仕事は率先してやってはいたのだけれど。
そんな私にパパはいつも魔法の呪文を唱える
「天花はいつか星を掴むよ」
これは私が子供の頃からのパパの口癖だ。
ただ単に手のひらにアザがあるだけだと言っても、ヨーロッパでは幸せになる象徴だと笑って流された。
          
手のひらをじっと見つめる癖がついたのは、自分が掴む星って何だろうと真剣に悩みだした時からだ。
                           
ただ漠然と過ごす日々の中、湧泉音は美大に進み、琥珀は動画サイトで人気を博していた。
その時もやはり2人とは歩く道が違うのだと、勝手に決めて落ち込んでしまったのだ。
けれど、琥珀からプロデビューの電話をもらった瞬間、彼の居る世界の隅っこに、自分の居場所を見たような気がしたのだ。
相乗りするわけではないけれど、自分がやっている仕事にやっと意義を見出せたような感じだった。
もう2人を羨んだりはしない。
今居るこの場所で頑張って、一流の技術を身に着けよう。それが自分の星を掴むことだから。
ヤレヤレやっと私が自信を持てたと思ったら、次は2人の番だね。
いいよ、いいよ。好きなだけ悩みなさいよ。それが青春の痛みってやつだよきっと。見守ってるから存分にあがきなさい。
ああ、でも、チョコレート食べたい。
私も重症のシュガーブルース(砂糖中毒)だ。