無題ドキュメント 47
ここに居る意味
この父親譲りの気難しさを持った従兄弟は、時々謎だ。
いきなり朝の食卓でモノクロの既視感と言われても、どう答えていいかわからない。
そう言えば初めて九州のこの街に遊びに来た時も、同じことを言っていた。
「・・・・何だか・・・・・・昔から・・・・知ってるような・・・・」
その時は、戦後まもなく建てられた古い住宅が多く残る場所なので、私達の知らない昭和と言う時代の匂いがそうさせるのかと思ったが、最近の湧泉音は、時折見たこともない表情でじっと虚空を見つめていたりする。
これじゃあ湧泉音ママが心配して送り付けるわけだ。
このまま行くとただの引きこもりになりかねないものね。
せめてここに居る間だけでも外に引っ張り出して、眠っている創作意欲を呼び覚ますことが出来ればいいのだけれど。
ほっとくと1日中狭い二段ベッドでゴロゴロしてるんだもの。
「シッカ・・・・ここに・・・今・・・居る意味って・・・・」
「はあ?」 
                       
「・・・・・何故・・・・居るのかな・・・」
空になったミルクのグラスをじっと見つめて湧泉音は呟く。
「夏休みだから居るんじゃない。但し、私がこっちに帰って来なければゆねが来ることもなかったよね」
「・・・・偶然・・・来た・・・」
「う~ん。私達家族がここに居るのはまあ必然と言うか、流れと言うか」
東京の大学を卒業して、絵を描き続けていたママと広告代理店で働いていたパパ。
つまり私の両親はママの実のママが死んで、ママのパパ、私のお祖父ちゃんが一人になったので、こちらに帰って来たのだ。
幸いなことに、ママの実家はイベント会社なので、東京でやっていたパパの仕事がそのまま役に立った。
何より、思い切りアウトドアなパパは車で30分も走れば自然が一杯なここの環境をすぐ気に入ったのだ。
もっとも、私は高校の途中で転校するはめになり、それがすごく辛かったのを覚えている。