無題ドキュメント 73
ノラネコ
「・・・・いいよ・・・・・・」
「出来れば・・・・傷つきたくない。苦しい思いや辛い思いはしたくない」
「そりゃな。でも逃げたって何も変わらねえし、自分が同じところにいるだけで成長しねえじゃん。生きるって確かに辛いことの方が多いだろうさ。でも、一歩進んだその先に光があると思いたい。もしかしたら、それがさっき言った神のサインってものかもしれねえし」
「どうすればいいんだろう、解らなくなっちゃった。」
「目の前にあることに囚われて、がんじがらめにならなきゃいいんじゃねえのかな?」
「でも、もっと辛いことが起きるかもしれないんでしょ?」
「シッカ・・・人間ってさ勝手なもんで、過去の苦しみに比べたら今、目の前にあることなんて大したことないって、頭じゃ解っててもさ、心が否定するんだよ今の方が辛いって・・・よく言うだろ?喉元過ぎれば熱さ忘れるって」
「それって・・・・?でも本当に過去の苦しみより、目の前のモノの方が大きかったら?乗り越えられなかったら?」
     
「生きてりゃ何とかなるって。とにかく頑張れよそれしかねえだろ?」
「頑張るってどう頑張ればいいの?」
          
私が不登校になりかけた頃みたいだ。
毎晩、琥珀にメールして今みたいなやりとりをしていたっけ。
そのまま高校に行き続けることに意味を見いだせず、かと言って何がしたいわけでもなく、毎日心が漂流しているようだった。
今は少なくとも目標がある。生きていく道しるべとも言うべきものを手にしている。
あの時の空っぽな状態に比べたら、今のほうがはるかに充実しているのは解っているけれど・・・・
「普通に生活することが大事なんじゃね?辛いことや苦しいことが通り過ぎるまで、淡々といつもの暮らしをする。これが案外難しかったりするんだよ」
「琥珀は・・・そうやって乗り越えた経験あるんだ」
「まあな。毎日精一杯働いてそんな中で人に出会ったり、別れたりって言う単純なことの繰り返しでいいんじゃねえの?とにかく自分が頑張れることをすりゃいいさ。」
             
「それが一番難しいと思う」
「ムリをしない。フリをしない。自分らしく。そう言った意味じゃユネが一番自然体かもしれねえけど」
「・・・・・そうかな・・・・・」
             
「野良猫みたいなとこあるじゃん。傷ついたらじっとうずくまって治るのを待つみたいなさ」
「・・・・・ノラ・・・ネコ・・・・?」
         
「ゆねがそんなにシャープなものかな?」
「シャープ?つうより本能?何か野生の感で動いてるみたいじゃん。ユネって」
「・・・・・・よく・・・わからない・・・・」
「上手く言えないんだけどな。臆病なくせに大胆つうか好奇心旺盛つうか・・・・でもめんどくさがりだしな」
「それの何処が野良猫なのよ?」
「なんとなくさ。マイペースなところかな?」
「どっちかって言うと飼い猫っぽい気がするけど・・・」
「・・・・・人間・・・・だけど・・・・」
「そうかあ?尻尾生えてんじゃねえの?お前」