夜の帳の中で |
「やっぱ、赤ベースだろ?」 「・・・・白ベース・・・・がいいと思う」 「銀色も良くない?親分狐ぽくって?」 「もよこ・・・お前は可哀そうだけど顔がデカすぎてお面が合わねえよ。家でおとなしくしてろ!」 「・・・もよこ・・・ダンボールで・・・作るよ?」 「ああいじけちゃった。琥珀の言い方はないよねえ?」 「俺様は真実を言ってんの。まろざらし~お前はそのまんまで十分いけるよなあ」 「こらこら、嫌がってるでしょ!」 「よ~しもう一度、ルートの確認ね」 「俺は西からユネは東。シッカは途中で交代するのか?」 「多分、サッチン先輩が間に合うはずだから・・・スタートから行けると思うよ」 「・・・・7時集合・・・7時30分・・・行列開始」 「んで大体30分位ゆっくり練り歩いて、8時に鳥居前に集合だよな?」 「子供の参加者も多いから、列からはみ出ないように気をつけて」 「歩行者天国は?っと、ここからここまでだな」 「・・・何故?・・・南はないの?・・・」 「そうだよな?西と東。シッカは北からだろ?考えたら南だけないんだよな」 「南は火の方角だからなんだって。秋葉神社は火伏の神様でしょ、そこに火を連れて行くわけにはいかないって、最初にパパが計画した時おじいちゃんが言ってた」 「へえ~火の方角ね。縁起がよさそうなのにな」 「そう思うでしょ?南向きに寝るとお札が燃えて貧乏になるとか、頭に血が上ってケンカが絶えない家族になるんだって」 「うへ~、おっかねえな」 南を除く3つの方角から遠目にもゆらゆらと提灯の淡い灯りが見え隠れする。 陽が落ちたとは言えまだ仄明るい。 夏の名残をまとったまま、狐達の神秘的な夜行が始まった。 考えたらこの行列を、いや神社の秋祭り自体、見に来るのは初めてではないか? 現会長である茅乃の父親が始め、帰って来てからは夫が引き継ぎ、手伝いこそはするものの、こうやってわざわざ足を運ぶことなど今までなかった。 翔子が死んでもうすぐ20年になる。 うつむいている間に月日は足早に過ぎて行く。 今日を逃すとまたしばらくはここに来られないような気がして、天花達3人が先導する狐火行列だけでも見ようと、重い腰をあげた。 「行列が来たぞ!」 誰かの声で我に返り、茅乃はじっと目を凝らして見つめ続けた。 薄明かりの中、狐の面を着けた人々の群れが静かに滑り込むように境内へとやってくる。 そんな・・・ばかな。彼女の目が釘づけになった。 |