契約の子 |
眩しい光を感じて茅乃は思わず横を向く。そこには愛らしい娘の寝顔があり思わず笑みがもれた。 しかしその子が伸びをして手のひらを広げた時、再び忌まわしく悲しい記憶が彼女を捉えた。 「茅乃、この子は星を掴むよ。手のひらの痣は幸運の印だ」 夫はそう言って私を慰めてくれる。 でも違う。私のせいだ。この子がお腹にいる時、火事を見てしまった私のせい。 生またばかりの赤ん坊の手のひらを見て動揺する茅乃に、そんなものは迷信ですよ、と助産師は言った。 それともこれは罰なんだろうか? 翔子を救えなかったことを忘れるな、と神様に言われているのだろうか? 大切な幼馴染を助けられなかった自分に、この子を育てる資格があるのだろうか? 生まれたばかりの我が子を抱きしめる喜びより、雪の中で感じたあの見えない影が今にも伸びてきて、赤ん坊を連れ去るのではないか?と言う不安に怯えてしまう。 「茅乃、眩しかったかい?すまない。でも、窓の外を見てごらん」 夫に言われるままに目をやると、カナリアの羽色に輝く空には幾つもの天使の梯子が伸びている。 「1日の間に命が続けて誕生するなんて、従兄弟と言うよりまるで3つ子だね。しかも今日はずっとヤコブの梯子が空に架かっているなんて・・・」 「ヤコブの梯子と言うの?」 「ああ、だからこの子達は契約の子だよ」 「契約の子?」 「見よ。一つの梯子が地に向け立てられている、その頂は天に届き見よ、神の使い達がその梯子を上り下りしている」 「聖書・・・ね。ヤコブ・・・主からこの地を約束された神の子」 「そうだ。茅乃、この子達も神が遣わしたんだよ。何を契約してこの世に誕生したかは解らないけれど、少なくとも君と僕を親に選んでくれたんだ。たくさんの笑顔と幸せをこの子にあげよう」 「そう・・・ね」 茅乃は改めて目の前にある小さな存在を愛しく思った。 「貴方はまるで天から梯子を使って降りて来たみたいね」 |