悪意 |
キーホルダーと一緒に入っていた手紙や新聞の切り抜きは、恐らくその亡くなった幼馴染のものなのだ、と気が付いた時には箱ごとどこか別の場所にしまわれていた。 やがてそれすらも忘れかけていた頃、こちらに引っ越して来て倉庫の片隅に置かれているのを見つけたが、そのままにしてある。 ヘカテは元々安産の神様だ。 妊婦のもとに寄り添い、分娩を助ける。 けれどあまりにも強い霊力を持つが為に、それが人間に伝わることを恐れた、他の神々から冥府へと落とされ、死と再生を司る番人となった。 祈りを捧げる者には限りなく優しい、清めと贖罪の神でもある。 「・・・・・力・・・・故・・・・」 「神様とやらの世界も妬みや裏切りが横行したわけか。俺様も気をつけよう。才能の有る奴は足を引っ張られた上に、悪意に晒されるからな」 「ちょっと、そこで何で私を見るのよ」 「見てないって。自意識過剰だよお前、俺はただ単に例えを言っただけだよ。た・と・え」 「そんなことない。絶対、私のこと言ったよ。ねえ、ゆね??」 「・・・・悪意・・・晒される・・・」 「ゆね?どうしたの・・・誰かに苛められたの?」 「・・・・いや・・・・・・」 「俺たちは見てくれからして違うからな。そこからして一般の人間の心の物差しに当てはまらない。で勝手な憶測でものを言われる。髪の毛が長すぎるだの、性格が派手だの、不良に決まってるだの」 「・・・・うん?・・・・」 「要するに、存在自体が知らず知らずのうちに周りに不快感を与えちまうのさ。不快=排除の図式。それが悪意・・・違うか?」 「ゆねはともかく、琥珀の場合はその口の悪さのせいじゃない?もっと優しい言い方すれば誤解されることも無いと思うけど?」 「じゃあシッカは、誤解も偏見も無く居られたか?いつもニコニコしてりゃ攻撃されなかったのか?」 「・・・・・攻撃・・・・」 「見かけは外国人のくせに英語が・・・俺たちの場合はドイツ語だけどな。喋れない変なヤツって言われ続けたじゃないか?幾ら俺たちが普通に振舞おうと努力しても・・・・な」 「そりゃ宇宙人とか随分ひどいこと言われたけど」 「怖いから憎むんだきっと。狭い子供の世界の中では、俺達は未知の人間なんだよ。髪の色や目の色が違うってだけでな。だったらいっそ関わらずにいるか、憎悪の対象にするかだ。」 「確かに、私達って友達少ないよね」 「・・・・・憎まれる・・・悪意・・・」 「そんなんで落ち込むなって。自分が自分らしく振舞えない相手なら友達とは言えねえだろ?それとも平気なのかよ?そんな偽りの関係でも・・・?」 「昔はね、自分ってこんなんじゃないのになんて思いながら演じてる部分があった。仲間はずれが嫌だったから」 「・・・・そう?・・・・なんだ・・・」 「1人って怖いし、吐きそうなくらい嫌だったもん」 「ワリイ!何か小難しい話になっちまった。ヘカテにしろここの迦具土の神さんにしろ不遇な連中ってところから、俺らに似てんのかなって思ってさ」 「神様と同列はだめでしょ。罰当たりな・・・それにそんなに不幸じゃないと思うよ。今の私達は」 「まあな。少なくとも今はな。自分で選んだそれぞれの道を歩いてるわけだから」 湧泉音はさっきからずっと黙り込んでいる。 |