無題ドキュメント 49
空が呼ぶ
ああ、そうだ。あの時もこんな感じだった。
琥珀は空を見上げた。
高校時代、学園祭の1ケ月前。従兄弟であるユネと演奏する新しい曲を打合せしていた時だ。
ふと見ると、ユネがぼんやりと窓の外に目をやっている。
こいつはいつもこうなんだよな。
目の前に居るのに居ない。意識だけがユネからは遠い何処か別の場所にあるかのように、ただじっとそこに佇んでいるだけに見える。
「・・・・・綺麗・・・・だ」
「んん?何が?」
琥珀も窓の外に目をやった。 
              
「ああ、天使の梯子ってやつな」
「・・・・天使の・・・・梯子」
ユネは僅かに目を細め、その眩い光の方向に手を伸ばした。
「・・・・呼ばれてる・・・・みたい・・・だ」
「はあ?何が?呼んでるんだよ」
「・・・・・空・・・・・が・・・」
琥珀も手を伸ばした。但し、その手はユネの額に向けて真っ直ぐ伸ばされたものだ。
「熱があるわけじゃなさそうだな」
「・・・・ない・・・・よ」
珍しくユネがムッとして返した。
「怒るなよ。空に呼ばれてるなんて言われたら、ああそうですかそれでは何時のフライトをご予約しましょうか?なんて言えるわけないだろ?」
「・・・・ごめん・・・でも・・・・」
「ああ?シッカと話したんだ?」
「・・・・・・・シッカ・・・いや・・・・」
                             
「あいつにまた詞を書いてもらったんだよ。てっきり俺より先にお前に見せたのかと」
「・・・・いや・・・・知らない・・・」
「だから、空に呼ばれるって、まっいいや」
「・・・・・ごめん・・・」
「もしかしたら、生まれる前の記憶ってやつかもな」