無題ドキュメント 59
秋葉神社
実家でパパに事の成り行きを話すと、ママに内緒で明日庭の隅に埋葬してくれると言う。
ママが自治会の月例会で居なくて良かった。私以上に小さな命が奪われることに傷つき、悲しむ人だから。
「・・・・神社?・・・」
家を出てすぐ、湧泉音が立ち止まり私に話しかけて来た。
「えっ?ああそうよ。秋葉神社」
鬱蒼とした鎮守の杜が道路を隔てた向こうに拡がる。
いつもだったら、そのままお参りして帰るけれど、今日は何だか参る気になれない。
秋葉神社自体は<火伏の神>いわゆる防火の神様だ。
その鳥居の手前にはお稲荷さんがあり、芸能の神様、故にうちの会社としては本来厚く信奉するべきなのだが。
何故か?この秋葉神社のことはタブーなのだと思わせる、重い雰囲気が昔からあった。
近くなのにね。秋葉は商売繁盛の神様でもあるのに。とママが言葉少なに言ったことがある。
                                 
貴女が生まれる前に行ったきりだわ。
その時はパパも一緒になって黙ってしまったので、以来、何となく1人でこっそりと行くようになった。
そのせいか、私自身とても好きな場所であるにもかかわらず、行けば必ず切ない気持ちになるのだ。
だからよけい今日はお参りなんて出来ない。
「今度、改めてお参りしようよ。ここのお稲荷さんは芸能上達の守護神だから、特に琥珀は参ったほうがいいよ」
「おいおい、俺様の実力は神頼みかよ?」
「つべこべ言わないの。霊験あらたかなんだから、有り難くお参りしなさい!」
「だってよ、ゆね」
「・・・・・秋葉・・・・東京?・・・」
「はあ?何だって」
「ああ、そうよ。かの秋葉原にある神社と同じ。昔はアキバハラだったから秋葉神社になったんだって。今は街だけが、アキハバラって呼ぶようになったらしいけど」
「・・・・・詳しい・・・・」
               
「シッカ!お前神社オタクかよ」
「失礼ね!自分が好きな神社の由来を調べて何が悪いのよ」
「・・・・秋葉・・・・あきは・・・・・」
「ゆね。あきは神社じゃないのよ。あ・き・ば神社!!」
「ハイハイ。それじゃ、あきば神社様とやら、また改めてお参りに来るんで、そん時ゃよろしくっす」
「琥珀ったら~そんなんじゃ、願いを聞いてもらえないわよ!何でもっときちんと言えないわけ?」
それから数日間は死んだ子猫のことが頭から離れず、意味もなく落ち込んでは涙が溢れた。
但し、そんな私の感情とはお構いなしに、仕事は毎日早朝から深夜まで続いた。
琥珀も湧泉音も解らないなりに現場に出て重い機材を運んでいる。
「ひょ~!キツイよなあ。でも、いい経験になるよ。自分がメジャーになったとしても、裏方の人間あってのことだって、よお~く分った。骨の髄まで刻み込むゼッ!」
琥珀にしては殊勝な意見だ。もっと真面目な言い方をすればいいのに、素直じゃないんだから。